AIと公共データの実験室 #05|実家を空き家にしないために、元気なうちに話せること
親が暮らしていた家を、この先どうするのか。
売るのか。貸すのか。誰かが住むのか。
家族で話さないまま時間が過ぎ、気づいたときには誰も住まない家だけが残っている。
空き家という言葉を聞くと、山あいの古い家を思い浮かべるかもしれません。
でも、これは私たちの家にも起こり得る話です。
今回、埼玉県の高齢化率と空き家率を重ねてみました。
結論から言うと、高齢化率が高い地域ほど「使用目的のない空き家率」も高い傾向がありました。
ただし、高齢化だけが原因とは言えません。
むしろ見えてきたのは、家を次の人へ引き継げるかどうかが、高齢化時代の暮らしに大きく関わるのではないか、という問いでした。
そもそも「空き家率」とは何を数えている?
空き家には、いくつかの種類があります。
- 入居者を募集している賃貸住宅
- 売却中の住宅
- 別荘などの二次的住宅
- 賃貸・売却・別荘などの使用目的が決まっていない住宅
すべてを合わせたものが「空き家総数」です。
でも、入居者を募集中のアパートの一室と、相続後に誰も使っていない一戸建てでは、意味が違います。
そこで今回は、空き家全体に加えて「賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家」を主に見ました。
少し長い名前なので、この記事では「使用目的のない空き家」と呼びます。
埼玉県は空き家が少ない県なのか?
2023年の埼玉県には、約356万戸の住宅がありました。
そのうち空き家は約33万戸。空き家率は9.3%です。
これは47都道府県で最も低い数字でした。
ところが、使用目的のない空き家に絞ると約13万6千戸、率は3.8%です。前回調査より戸数も率も少し増えていました。
「埼玉県は空き家率が低いから安心」とまでは言えません。
県全体の数字の中には、市町ごとの大きな違いが隠れていました。
高齢化率と空き家率を重ねると?
今回、市町村別に比較できたのは53市町です。
高齢化率は2020年国勢調査、空き家率は2023年住宅・土地統計調査を使いました。
高齢化率と使用目的のない空き家率の相関係数は0.705でした。
相関係数は、二つの数字が一緒に動く傾向を見る目安です。1に近いほど、同じ方向へ動く傾向が強くなります。
今回の53市町では、高齢化率が高い地域ほど、使用目的のない空き家率も高い傾向が見えました。
ただし、「高齢化したから空き家が増えた」とは断定できません。
住宅が建てられた時期、人口移動、相続、住宅の状態、駅や店までの距離なども関係する可能性があります。
川島町、秩父市、小川町の数字から何が見える?
使用目的のない空き家率が高かった市町は、次の通りです。
- 川島町:12.1%
- 秩父市:10.8%
- 小川町:9.8%
- 嵐山町:8.5%
- 吉見町:8.5%
埼玉県全体の3.8%と比べると、差があります。
川島町の2020年高齢化率は35.97%。2000年から2020年の人口は16.91%減っていました。
秩父市は高齢化率34.09%、人口は19.22%減。小川町は高齢化率38.89%、人口は23.53%減です。
高齢化、人口減少、使用目的のない空き家が同じ地域で重なっています。
ただし、この数字だけで「空き家が増えた理由」までは分かりません。
相続された家が使われていないのか。古くなった家に次の住み手が見つからないのか。所有者が遠方に住んでいるのか。
次に調べたい問いが、ここから生まれます。
高齢化率が低くても空き家は増える?
予想と違う数字もありました。
滑川町の高齢化率は23.37%で、53市町の中では低めです。
2000年から2020年の人口は53.72%増えていました。
それでも、使用目的のない空き家率は7.6%。県全体の3.8%を上回ります。
人口が増えているから、古い住宅もすべて使われるとは限らないようです。
新しい住宅が増える一方で、以前からある家が次の住み手へ引き継がれていない可能性もあります。
これはデータから直接確認できた事実ではなく、次に確かめたい仮説です。
高齢化率だけでは、空き家率をすべて説明できないことが分かります。
空き家率14%でも、意味は同じではない?
もう一つ気になったのが坂戸市です。
空き家全体の率は14.0%で、県内でも高い数字でした。
ところが、使用目的のない空き家率は2.8%です。
二つの差が大きいのは、賃貸用や売却用などの空き家が多いからだと考えられます。
つまり、「空き家率が高い」という数字だけで、放置された家が多いとは言えません。
どの種類の空き家なのかを見ることで、地域の見え方が変わりました。
自分の家に置き換えると?
統計を見ながら、私は自分の家や家族の家のことを考えました。
いま誰かが暮らしている家も、住む人がいなくなれば空き家になります。
そのとき、誰が管理するのか。
荷物をどうするのか。
売るのか、貸すのか、残すのか。
元気なうちは、そんな話を切り出しにくいものです。
でも、決めることより前に、「この家を将来どうしたいと思っている?」と聞くだけでも違うのかもしれません。
空き家対策は、行政だけの話ではありません。
家族が元気なうちに、家の次の使い方を話せるか。
今回のデータを掛け合わせて、そこまでが一つの課題なのだと見えてきました。
今回分かったこと
- 高齢化率が高い市町ほど、使用目的のない空き家率も高い傾向があった
- ただし、高齢化率が低く人口が増えている滑川町でも高い値が見られた
- 空き家総数と使用目的のない空き家では、地域の見え方が変わった
- 高齢化率だけで空き家の発生理由を説明することはできない
この分析だけでは分からないこと
- 空き家になった直接の理由
- 所有者がどこに住んでいるか
- 相続や売却の状況
- 建物の老朽化や耐震性
- 駅、病院、スーパーまでの距離
- 空き家バンクや改修支援が実際に利用されているか
住宅・土地統計調査は標本調査です。市町別の数字は推計値で、標本誤差を含みます。
また、市・区と人口1万5千人以上の町村だけが市町村別公表の対象です。今回は埼玉県63市町村のうち、比較可能な53市町を分析しました。
高齢化率は2020年、空き家率は2023年で、年次も一致していません。
今回の数字は、自治体を採点するためのものではありません。
読んだあと、何を話せばいい?
自分や家族が所有する家について、まず三つだけ確認してみてください。
- 将来、誰がその家を使うのか
- 使わなくなったとき、誰が管理するのか
- 売る・貸す・残すという希望を、家族で共有しているか
答えを今すぐ決める必要はありません。
家が空いてから考えるのではなく、住んでいるうちに話を始める。
それが、データから見えてきた小さな次の一歩です。
3行まとめ
- 高齢化率と使用目的のない空き家率には、同じ方向へ動く傾向があった
- ただし、人口増加地域の空き家や、賃貸用の空室など、高齢化だけでは説明できない
- 空き家問題は、家を次の人へどう引き継ぐかという暮らしの問題でもある
よくある質問
空き家率が高い地域は、住みにくいのですか?
そうとは限りません。賃貸募集中の住宅や売却中の住宅も含まれます。交通、買い物、医療などを別に確認する必要があります。
高齢化すると、必ず空き家が増えますか?
必ずではありません。今回の53市町では同じ方向へ動く傾向がありましたが、住宅供給、人口移動、相続など別の条件も関係します。
「使用目的のない空き家」とは何ですか?
賃貸用、売却用、別荘などを除いた空き家です。相続後に使われていない家などが含まれますが、個々の事情までは統計から分かりません。
なぜ63市町村すべてを比べないのですか?
住宅・土地統計調査の市町村別結果は、市・区と人口1万5千人以上の町村が対象だからです。今回は公表値がある53市町だけを使いました。
主な出典
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」
- 埼玉県「令和5年住宅・土地統計調査結果」
- 埼玉県「県内空き家の現状」
- e-Stat「令和2年国勢調査」「平成12年国勢調査」
※相関関係は因果関係を示しません。個別自治体の優劣を評価する目的ではありません。

