AIと公共データの実験室 #07|スーパーが近くても、買い物に困ることがある

冷蔵庫を開けて、牛乳がないことに気づく。

いまなら車でスーパーへ行けばいい。歩いてコンビニへ行ってもいい。スマートフォンで配達を頼む方法もあります。

でも、車を運転しなくなったらどうでしょう。

重い袋を持って歩くのが難しくなったら。宅配の注文がうまくできなかったら。

今回、埼玉県63市町村の高齢化率と買い物環境を重ねました。

最初は、高齢化率が高い地域ほど買い物に困る人も多いだろう、と考えていました。

ところが、データはそう単純ではありませんでした。

高齢化率と買い物困難割合には、ほとんど関係が見られなかったのです。

見えてきたのは、買い物のしやすさを決めるのは「高齢者が何人いるか」だけではなく、店までの距離、車を使えるか、荷物を運べるか、代わりの方法があるか、という暮らしの条件だということでした。

「買い物に困る人」はどう数えた?

今回は、農林水産政策研究所の「食料品アクセス困難人口」を使いました。

対象は、次の二つに当てはまる65歳以上の人です。

  • 食料品を扱う店まで500m以上ある
  • 自動車を利用することが難しい

食料品店には、スーパーだけでなく、食肉・鮮魚・青果店、コンビニ、ドラッグストアなども含まれます。

大切なのは、単なる店舗数ではないことです。

店が一軒あっても、自宅から遠く、車も使えなければ買い物は難しくなります。反対に店が遠くても、車、移動販売、宅配などが使えれば暮らしを続けられることがあります。

ただし、この数字は国勢調査や店舗の位置などから計算した推計値です。「困っていますか」と一人ずつ聞いた結果ではありません。

埼玉県では何人くらいが買い物に困りやすい?

市町村別の公表値を合計すると、埼玉県では65歳以上の約23.6%が食料品アクセス困難人口に当たります。

およそ4人に1人です。

75歳以上では約28.2%。65歳以上より4.6ポイント高くなりました。

年齢が上がれば、運転をやめる人や、長い距離を歩くのが難しい人も増えると考えられます。

しかし、ここでも年齢だけで一人ひとりの状況を決めつけることはできません。

高齢化率が高いほど買い物は難しい?

高齢化率と、65歳以上の買い物困難割合の相関係数は「-0.087」でした。

相関係数は、二つの数字が一緒に動く傾向を見る目安です。今回はゼロに近く、ほとんど関係が見られませんでした。

「高齢者が多い地域」と「高齢者の中で買い物に困りやすい人が多い地域」は、同じではなかったのです。

高齢化率が最も高い東秩父村は46.6%。ところが65歳以上の買い物困難割合は15.7%で、県平均より低い数字でした。

一方、高齢化率が17.9%と低い和光市では、買い物困難割合が34.7%でした。

予想とは反対に見える二つの地域が、今回の大きな発見です。

車がある地域は安心なのか?

東秩父村では、人口1,000人当たりの乗用車・軽自動車が926台ありました。県内でも高い水準です。

店が遠くても、車が現在の買い物を支えている可能性があります。

ただし、車両数は高齢者本人が運転していることを示しません。家族が運転しているかもしれません。

そして、いま運転できることと、5年後、10年後も同じように運転できることは別です。

車で不便を補っている地域ほど、免許を返した後の変化は大きくなるのかもしれません。

買い物に困ってから代わりを探すのではなく、運転できるうちに一度、別の方法を試しておく。ここは#04の公共交通分析ともつながります。

交通が便利なら買い物にも困らない?

和光市の公共交通人口カバー率は96.4%でした。

これは、500m人口メッシュの中心が駅800m以内、またはバス停300m以内にあるかを調べた#04の独自集計です。

交通が多くの人の近くに届いている一方で、買い物困難割合は34.7%。県内で2番目に高い数字でした。

停留所が近いことと、買い物に使えることは同じではありません。

スーパーへ直接行けるのか。必要な時間に走っているのか。買い物袋を持って乗り降りできるのか。

大きなスーパーでは、店に着いてから店内を歩く負担もあります。

今回のデータだけで和光市の理由までは分かりません。ただ、「都市部なら安心」「バス停が近ければ安心」とは言えないことは分かります。

買い物は、品物を手に入れるだけ?

移動販売や地域の小さな店には、商品を届ける以外の役割もあります。

決まった曜日に外へ出る。店員と話す。近所の人と顔を合わせる。

埼玉県の地域福祉支援計画では、熊谷市の移動販売「あんしん市場」で、買い物支援に加えて交流や見守りにつながった例が紹介されています。

宅配は便利です。けれど、人と会う機会まで宅配できるわけではありません。

買い物環境を考えるときは、「食品が届くか」と「人とのつながりが残るか」の両方を見る必要があるのだと思います。

自分や親の暮らしに置き換えると?

いつもの買い物を、車を使わずに一度やってみると分かることがあります。

バス停まで何分かかるか。

牛乳、米、ペットボトルを持って帰れるか。

雨の日でも続けられるか。

スマートフォンの宅配サービスを、家族に頼らず注文できるか。

数字で地域を眺めるだけでは見えなかった負担が、実際に試すと見えてくるかもしれません。

今回分かったこと

  • 高齢化率と買い物困難割合には、ほとんど関係が見られなかった
  • 埼玉県では65歳以上の約23.6%、75歳以上の約28.2%が食料品アクセス困難人口と推計された
  • 高齢化率が低い都市部でも、買い物困難割合が高い自治体があった
  • 車や公共交通があっても、それを実際の買い物に使えるかは別に確認する必要がある

この分析だけでは分からないこと

  • 一人ひとりが実際に買い物で困っているか
  • バスの本数、行き先、運賃、乗り換え
  • 道路の坂、歩道、横断歩道、店内を歩く負担
  • 宅配、移動販売、買い物同行の利用者数
  • 店舗の品ぞろえ、価格、営業時間
  • 家族や近所の人による支援

数字は自治体を採点するものではありません。

同じ市町村でも、駅前と郊外、団地と戸建て地域では状況が違います。

読んだあとに試せる三つのこと

  1. 車を使わず、いつもの店へ一度行ってみる
  2. 自分の地域の移動販売・宅配・買い物支援を一つ調べる
  3. 家族と「運転しなくなった後、食料品をどう買うか」を話す

困ってから初めて調べるより、元気なうちに試しておく。

買い物という毎日の小さな行動だからこそ、暮らしの変化を早めに教えてくれるのかもしれません。

3行まとめ

  • 高齢者が多い地域ほど買い物が難しい、という単純な関係は見られなかった
  • 店の距離だけでなく、車、公共交通、荷物、宅配、地域の支えを重ねる必要がある
  • まず一度、車を使わずにいつもの買い物ができるか試すと、自分の課題が見えてくる

よくある質問

食料品アクセス困難人口とは何ですか?

食料品店まで500m以上あり、自動車を利用することが難しい65歳以上の推計人口です。

スーパーが500m以内なら安心ですか?

必ずしも安心とは言えません。坂道、荷物、店内移動、営業時間などは、この指標だけでは分かりません。

高齢化率が高い地域ほど買い物に困りますか?

今回の63市町村では、ほとんど関係が見られませんでした。車や店舗配置など別の条件が関係します。

宅配があれば問題は解決しますか?

食品を受け取る助けにはなりますが、注文方法、配送料、人との交流など別の課題が残ることがあります。

主な出典

※推計値と相関関係から、個人の困難や原因を断定することはできません。

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