AIと公共データの実験室 #04|高齢者も車を運転する。では、免許を返した後は?

高齢化率が高い地域では、公共交通が大切になる。

最初は、そう考えていました。

そこで今回は、埼玉県63市町村の高齢化率に、駅とバス停のデータを重ねてみることにしました。

ところが、分析を始めてすぐに一つの疑問が出てきました。

高齢者も車を運転します。

駅やバス停が少なくても、車があれば買い物や通院はできます。では、本当に見なければならないのは、公共交通の多い少ないではなく、免許を返した後も同じ生活を続けられるかどうかではないか。

今回の分析は、途中で問いが変わりました。

結論から言うと、高齢化率だけでも、駅やバス停の数だけでも、高齢者の移動のしやすさは分かりませんでした。

公共交通が少ない地域では、車が暮らしを支えているように見えます。だからこそ、免許返納後の移動を考える必要がありそうです。

前回の#03では、高齢化率と医療資源を掛け合わせました。

前回の記事「AIと公共データの実験室 #03」を読む

公共交通だけを見ても意味がない?

今回、最初に調べたのは駅とバス停です。

鉄道駅から800m以内、またはバス停から300m以内に住む人口の割合を、市町村ごとに計算しました。

人口は、地域を約500m四方に分けた国勢調査の「人口メッシュ」を使っています。

その結果、埼玉県63市町村の公共交通人口カバー率は、平均76.8%でした。

ただし、この数字だけでは分からないことがあります。

バス停が近くても、一日に数本しか走っていないかもしれません。行きたい病院や店へ行けない場合もあります。坂道や歩道、乗り換えのしやすさも、この数字には入っていません。

そこで、次のデータも加えました。

  • 自動車と軽自動車の保有状況
  • 高齢単身世帯と高齢夫婦世帯
  • 車を利用しにくく、食料品店から遠い高齢者の割合
  • 最寄りの医療機関と病院までの距離
  • 免許返納支援の有無
  • コミュニティバスやデマンド交通などの支援

調べたいのは、交通機関の数ではありません。

その地域で、生活を続けられるかどうかです。

高齢化率が高いほど車が多かった

高齢化率と、人口あたりの車両数を比べると、相関係数は0.77でした。

相関係数は、二つの数字がどの程度一緒に動くかを見る目安です。1に近いほど、同じ方向へ動く傾向があります。

今回のデータでは、高齢化率が高い地域ほど、人口あたりの車両数も多い傾向が見られました。

一方、人口あたりの車両数と公共交通人口カバー率の相関は、マイナス0.78でした。マイナスの数字は、一方が多い地域ほど、もう一方が少なくなる傾向を表します。

公共交通が届きにくい地域を、車が補っている可能性がある。

そんな構図が見えてきます。

もちろん、車両が多いからといって、高齢者本人が運転できるとは限りません。家族の車、事業用車両、軽貨物なども含まれます。

それでも、「公共交通が少ない=すぐに困っている」とは読めないことが分かります。

東秩父村の数字から何が見える?

特に気になったのが東秩父村です。

  • 高齢化率:46.6%
  • 公共交通人口カバー率:61.3%
  • 人口1,000人あたり車両数:約926台
  • 最寄り病院までの人口加重距離:約5.0km
  • 食料品アクセス困難な高齢者の推計割合:15.7%

高齢化率は県内最高水準です。病院までの距離も長くなっています。

ところが、食料品アクセス困難率は県内平均の23.8%より低い結果でした。

これは「東秩父村では買い物に困らない」という意味ではありません。

むしろ、現在は車が生活を支えている可能性があります。

だとすれば、見るべきなのは現在の数字だけではありません。

免許を返した後、買い物や通院をどう続けるのか。

今回の分析で残った、一番大きな問いです。

今は自分で運転している人も、いつか鍵を置く日が来ます。その日になって初めて、いつもの病院へ行くバスがない、買い物袋を持って坂道を歩けない、と気づくのでは遅いかもしれません。

あなたの地域では、車を使わない日にも、いつもの暮らしを続けられるでしょうか。

公共交通のカバー率が低かった地域は?

公共交通人口カバー率が低かった地域には、次の自治体がありました。

  • 吉見町:23.4%
  • 美里町:28.1%
  • 本庄市:40.8%
  • 加須市:43.8%
  • 深谷市:45.7%
  • 小鹿野町:46.4%

ただし、これをそのまま「交通が不便な自治体ランキング」とは呼べません。

コミュニティバス、デマンド交通、乗合タクシー、病院の送迎などが、駅や通常のバスを補っている場合があるからです。

埼玉県が公開している2025年11月1日現在の一覧では、63市町村のうち、名称に「返納」を含む支援を27市町村で確認できました。

コミュニティバス、循環バス、デマンド交通、乗合、タクシーなどを含む施策は37市町村でした。

ただし、「制度がある」と「実際に使いやすい」は同じではありません。

対象年齢、予約方法、運行日、料金、行き先まで確認する必要があります。

都市部なら安心なのだろうか?

ここでも、予想と違う結果がありました。

和光市の公共交通人口カバー率は96.4%です。医療機関までの距離も比較的短い地域です。

一方、農林水産政策研究所が推計した「食料品アクセス困難な65歳以上人口の割合」は34.7%でした。

店や交通が近くても、車を使いにくい高齢者が実際に買い物できるとは限りません。

駅や店までの直線距離だけでは、坂道、荷物の重さ、体力、家族の支援などは見えません。

地方には地方の課題があります。

都市には都市の課題があります。

高齢化率だけでひとくくりにできない理由が、ここにもありました。

仮説はどう変わった?

最初の仮説は、こうでした。

高齢化率が高い地域ほど、公共交通が必要なのではないか。

データを重ねた後は、少し変わりました。

公共交通が少ない地域では、車が現在の暮らしを支えている可能性がある。だから、免許返納後も買い物や通院を続けられるかを確認する必要がある。

仮説どおりの答えが出たわけではありません。

でも、問いが具体的になりました。

AIと公共データを使った分析は、正解を出すためだけのものではないのかもしれません。

自分の思い込みに気づき、次に確かめる問いを見つける。

私は、そこに面白さを感じています。

今回分かったこと

  • 高齢化率が高い地域ほど、公共交通人口カバー率が低い傾向があった
  • 高齢化率が高い地域ほど、人口あたり車両数が多い傾向があった
  • 公共交通が少ない地域では、車が暮らしを補っている可能性がある
  • 高齢化率だけでは、買い物困難率を説明できなかった
  • 駅やバス停が近くても、実際に利用しやすいとは限らない

この分析だけでは分からないこと

今回の分析では、次のことは分かりません。

  • 高齢者本人が現在も運転しているか
  • 免許を返納した人が市町村ごとに何人いるか
  • バスの本数、運行日、料金、行き先
  • 買い物や通院にかかる実際の時間
  • 家族の送迎、移動販売、宅配サービスの利用状況

今回の数字は、自治体を採点するためのものではありません。

次に詳しく見る地域や、確認すべき制度を見つけるための入口です。

読んだあと、何を確認すればいい?

まずは、自分や家族の生活を一週間だけ思い浮かべてみてください。

  1. 車がなければ行けない場所はどこか
  2. そこへ行く別の方法はあるか
  3. その方法を、今のうちに一度試せるか

見るのは、バス停があるかどうかだけではありません。

病院やスーパーまで行けるか。必要な曜日と時間に走るか。電話で予約できるか。一人でも乗り降りできるか。料金を無理なく払い続けられるか。

免許を返すかどうかを迫られてから探すのではなく、運転できるうちに代わりの移動手段を一度使ってみる。それが、データから考えられる小さな次の一歩です。

まとめ

公共交通を調べ始めたはずが、最後に残ったのは「免許を返した後の暮らし」という問いでした。

高齢化率だけでは分からない。

駅やバス停の数だけでも分からない。

車、世帯構成、買い物、医療、地域の支援を重ねて、ようやく暮らしの一部が見えてきます。

データを一つ増やすたび、答えよりも新しい問いが増えていく。

それが、この実験室を続ける理由なのかもしれません。

よくある質問

公共交通人口カバー率とは何ですか?

駅から800m以内、またはバス停から300m以内に住む人口の割合を示した目安です。実際の道路や坂道、運行本数は含みません。

車両数が多ければ、高齢者の移動は安心ですか?

そうとは限りません。車両数は、高齢者本人が運転できることや、免許返納後も家族が送迎できることを示しません。

支援制度がある自治体なら安心ですか?

制度名だけでは判断できません。対象者、運行日、予約方法、料金、目的地を確認する必要があります。

この分析は自治体のランキングですか?

違います。地域ごとの事情を追加調査するための発見候補を探す分析です。

主な出典

対象年は、人口・鉄道・医療機関が主に2020年、バス停が2022年、自動車が2024年、支援施策が2025年です。年次が一致しない探索的分析として読んでください。相関関係は因果関係を示しません。

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